社会保険労務士法人 日本中央社会保険労務士事務所

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退職願はどの時点から有効か?


2012年9月13日  投稿者:社会保険労務士 内海 正人


おはようございます、カリスマ社会保険労務士の内海です。

いつもありがとうございます。

 

本日は「退職願はどの時点から有効か?」を解説します。


「ある社員が退職願を提出した後、『退職を撤回したい』と言って来ました。

どうすれば、良いのでしょうか?」


先日、このようなご質問を頂きました。


逆に、社長や上司が引き留め、退職願を一旦預かるということも

よくあります。


では、この退職願とその効力発生の時期はどう考えればいいのでしょうか?

 


まず、本題の前によく混同される「退職願」と「退職届」の違いについて

解説します。


これらは一文字しか違いませんが、大きく異なるものです。


ここは勘違いされている方が多いですから、よくお読みください。


それは、

〇 退職願・・・退職を願い出る書類

→ 「○月×日に退職したい」という「お願いする書類」

→ 退職を希望していることを表明するもの

→ 例えば、「○月×日に退職させて頂きたいと思います」と書く

→ 単なる「お願いする書類」なので、自らの意思で撤回できる


〇 退職届・・・退職を届け出る書類

→ 「○月×日に退職します」という「届出書」

→ 退職への強固な意志を表明する

→ 例えば、「○月×日に退職します」と書く

→ 退職願と違い、その旨を届け出たものなので撤回できない

ということです。


だから、封筒に記載されている「最後の1文字」が

「願」なのか「届」なのかによって、大きく取扱いが違うのです。


もちろん、内容(書き方)も

タイトルに合ったものである必要はありますが。


ちなみに、テレビなどで「辞表」を上司に提出する場面がありますが、

この場合の辞表は「退職願」に相当します(該当ではありません)。


ただし、社員が辞表を提出するのは法的には間違いです。


なぜなら、「辞表」という書類を出すのは、役員などだけだからです。


つまり、「辞表」とは「役員などが提出する退職願」ということです。

 

 

では、冒頭のご質問に戻りましょう。


冒頭のご質問であったのは「退職【願】」です。


社員からの退職願の提出は

法的には「会社への労働契約解約の申し込み」となります。


だから、会社が承諾すれば、労働契約は解約となり、

社員は退職することができます。


結果として、会社が承諾する前なら撤回はOKですが、

承諾した後は撤回できないことになります。


これについて参考となる裁判があります。


<大隈鉄工所事件 最高裁 昭和62年9月>

〇 社員が自ら退職を申し出た

〇 人事部長は慰留したが、その場で退職願に記入、署名、捺印し提出した

〇 提出の翌日に社員は退職願を撤回すると人事課長に申し出た

〇 人事課長がこれを拒否

〇 社員は「退職は撤回された」と訴えを提起した


裁判は最高裁まで行き、結果は次となりました。

〇 本人から申し出があった後、人事部長が退職願を受理した

〇 これは「労働契約の解約申込み」と「会社の承諾の意思表示」に該当

〇 労働契約の解約の合意が成立したものと解する


つまり、会社側が勝訴したのです。


この裁判のポイントは
--------------------------------------------------------------------
労働契約の解約の申込みは、人事部長などの権限のある責任者が

承諾した場合には解約合意が成立すると確認された。
--------------------------------------------------------------------
ということです。


この裁判では、人事部長が慰留したのを聞き入れず、

退職願をその場で提出し、これを受け取ったことで退職が成立したのです。 


ということは、逆に言えば

「退職の意思表明は権限ある責任者が承諾するまでは撤回できる」

ということにもなります(弁護士による解説文に記載)。


だから、就業規則等に退職の決定に関する事項を

記載しておくことが重要となるのです。


例えば、就業規則に下記のように記載しましょう。

--------------------------------------------------------------------
第〇条(一般退職)

従業員が次の各号の一に該当する場合には、各号に記した日をもって退職

とする。

(1)死亡したとき(死亡した日)

(2)自己の都合により退職を申し出、使用者の承認があったとき

(3)自己の都合により退職を申し出たが、使用者の承認がないときは
  
    退職願を提出して14日を経過した時

(4)休職期間満了日までに休職理由が消滅しないとき

(5)届なく欠勤し、居所不明等で使用者が本人と連絡をとることが

    できない場合で、欠勤開始日以後14暦日を経過したとき

(6)労働者性を有しない取締役等に就任したとき


2.前項(2)、(3)において、従業員が自己の都合により退職しようと

 するときは、30日前までに退職の申し出をしなければならない。
--------------------------------------------------------------------

ここまで記載して、どの状況が退職となるかを明記するのです。


ここで「使用者の承認」についてですが、

誰がどのように承認するのかは内規で明確にする必要があります。


例えば、

○ 社長や人事部長が承認

○ 取締役管理部長が承認

○ 毎月の定時役員会で承認

などとしておけばいいでしょう


そして、このプロセスをきちんと守ることが重要です。

 


最後に、注意して頂きたい点があります(重要)。


就業規則の例文(3)にも記載がありますが、

退職願の提出後、会社が放置し(=慰留し)、2週間を経過したら

これは承諾したものとみなされます。


これは民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ) に
--------------------------------------------------------------------
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、

いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、

解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
--------------------------------------------------------------------
と書いてあるからです。


だから、辞めて欲しくない社員であったとしても、

慰留し、引き伸ばしたとしても、「法的には」退職が成立するのです。


もちろん、退職後の関係も考えるべきで、

法的な要件を満たしても、強引に辞めるのはどうかと思いますが・・・。


しかし、社長があやふやな対応をしたために、

退職の承認時期が不明確となり、大きくもめた実例もあります。


それは、

〇 就業規則に「退職日の1ヶ月前までに退職の申し出をする」という旨が

  明記されている

〇 ある社員が退職する際、社長は10日前で退職を認めてしまった

〇 次に、別の退職希望の社員が出た

〇 前例があるため、「私も10日後に退職したい」と言った

〇 それも認めざるを得なくなり、その後も同じとなってしまった

○ その会社の引き継ぎはかなりアバウトになってしまった

ということです。


この件で私にご相談があり、このように対応しました。

○ 他の規定も含め、就業規則を全面的に見直した

○ 改定後の就業規則の説明会を実施した

→ 改定はある意味、流れを変えるきっかけとしたい面が大きかったです

○ 労働契約書を作り直し、社員に周知した


ちなみに、このお客様は社員数5人の中小企業です。


大企業ではないからこそ、退職のルールを明確にし、

引き継ぎなどがしっかりできるようにしておくべきなのです。


中小企業は1人1人の力が全社を支える側面が大きいのです。


退職のルールを明確にし、不公平感が出ない運用をしましょう。


ルールの作りすぎはいけませんが、アバウトすぎるのもいけません。


最低限守るべきルールは作り、それをきちんと運用していくのが

重要なのです。

 

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(株)日本中央会計事務所・日本中央社会保険労務士事務所
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ご注意ください。

 

■編集後記(内海)

今年の春に出版した拙著

「“結果を出している”上司が、密かにやっていること」

の翻訳本が出ます。


一昨日、出版社からのメールで台湾での翻訳本のオファーが来たのです。

どれだけ売れるかは未知数ですが、海外進出は嬉しいものです。


謝謝!


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